相変わらず


 おちびでポッチャリコンとしたリボンちゃんはなわとびやまりつきが大好きでした。

 マロンくんがプリプリしていると、リボンちゃんは下からそうっとじぃっとのぞき込みます。マロンくんは機嫌が悪いとなかなか気が良くならなくて、リボンちゃんも大変です。何回も下からのぞいたり、笑いかけたり、おててをひっぱったり、ちょっとさみしがったり、口をとがらせて、又、笑ったり。マロンくんがくすくすし出すと、リボンちゃんは目をきょろきょろさせて、おかしくても吹き出せないから、瞳に蜜がたまります。そんなリボンちゃんの姿にマロンくんはおこりんぼさんですから、顔を真っ赤にさせます。リボンちゃんはこぉわぁいぃこぉわぁいぃを何度も口にしながら、ちっともこわがらないで、おめめをまぶたで下げて、ほんとうにうれしそうにします。

 あぁ、ほっぺたがにくっつらしい。

 リボンちゃんのまばたきはパチリンコパッチリコン、おちびのくせにちょっとそらを使って、少し笑ったりうつ向いたりします。そんな時、マロンくんが笑かそうとすると、リボンちゃんの濃いまゆげがひくひくし出して、そのうち顔がくしゃくしゃになります。女の子ですから、そんなに何度もそういう風にしたらいけないの、だから、お口をおててで押さえても押さえても、吹き出して、結局顔はくしゃくしゃのままです。真っ白なおててが細くてぷっくりして、マロンくんは気がとられます。マロンくんはリボンちゃんのくしゃくしゃの顔が大好きでした。

 ある日、マロンくんとリボンちゃんは、甲虫をとりに行くことになりました。

 マロンくんは麦わら帽子をかぶって虫とりを振り回します。リボンちゃんはうすでの白い帽子とバスケットです。

 「甲虫は強いんだぞ。くわがた虫より強いんだぞ。」

 マロンくんが走り回って、あんまりはしゃぐものですから、リボンちゃんはマロンくんの手から虫とりを取り上げて構えます。リボンちゃんの二倍の高さはある虫とりですから、マロンくんはこわい顔したリボンちゃんがとってもかわいくてギャハハ笑い転げます。

 「えいっ、えいっ。」

 リボンちゃんがいくら振り回してもマロンくんの足が速くてなかなかとどきませんし、大きく空振りして転がりそうになります。マロンくんはとっても楽しくてスピードを出し過ぎてしまいました。声が聞こえなくなって、ふり返ると、ずっと後ろにリボンちゃんがたちんぼになってます。それでも構えてにらみつけてます。

 「マロンくんが虫とりでスカートめくったんだから。」

 せっかくお日さまがニコニコしている、そのまわりで気まぐれ雲が行ったり来たりします。落ち着きのない風さんが笑いかけて、虫とりのあみがなびいてました。もりあがった土手の小道で、一面のたんぼがもの静かにかったるそうにして、名前も思い付かない動物みたいな鳥が忘れた頃にバダハタして、健康そうな緑色したお山さんがゆっくりと息を吸い込んでははいて見下ろします。じとじと夏の暑さと心地良さが、せみの鳴く声や、あけびの成るふさがかすかに揺れ動くのや、どろんこにおもちゃのシャベルやバケツとかうまってるのが見えたりしているのと重なり合って、不思議に季節を感じさせます。

 いつの間にか、マロンくんがリボンちゃんの方に歩み寄って、ふたりして肩を並べて歩を速めたり、止まったり、遅くなったり、ときたま、マロンくんが、又、しかられたり、リボンちゃんの頭を押え付けたり、リボンちゃんが背伸びしてマロンくんの肩をたたいたり、マロンくんが頭を垂れてリボンちゃんがひっぱたいたり、見つめ合ったり、笑ったり。 肩を並べて、いざ、目的地へ向かうのでした。



 途中でリボンちゃんのバスケットを空にして、座り込んでいると、マロンくんは喉が渇き始めてそわそわし出しました。リボンちゃんは黙ってひざを抱えています。青々と茂っても実のない草木に囲まれては、マロンくんがいくら目を配ったって、立ったり座ったりするだけで、それをチラチラ横目でクスクスして、マロンくんがちょっとでもこっちに向くとあわててそのままなんでもないようにして、それでもリボンちゃんのかわいくまぁるい肩がピクピクしているのに、マロンくんはちっとも気が付きません。マロンくんはあっちこっち夢中になって汗までかいて、リボンちゃんは首がくすぐったくてたまりません。

 「ねぇ、あっそこのぉ、ほらっ、あっそこの、あのぉなっつみかん 、あれ食べようよ。ねぇ。」

 「ぇえ、どれぇ。あぁ、あれぇ、あんな遠くのぉ。ハハッ、ハハッ、アハハッ。」

 「おかしいのぉ。」

 「だって、あんなとおくにあるの、ハハッ、ハハッ、ハハハハハッ。」

 「やっぱりおかしいかなぁ。」

 「ぅんぅん、だけどたべて大丈夫かなぁ。」

 「どうして。」

 「だって、きれいかなぁ。ハハハッ。」

 「笑わなくたっていいのに。」

 「うんうん、ぜんぜん。ぜんぜんおかしくない。ぅん。ぜんぜん。」

 「ほんとに。」

 「ぅん……ハハッ、ハハッ。」

 「おかしぃのぉ。」

 「だってぇ、そんな、マロンくんこわい顔しなくたって。ハハッ。」

 「もぉう、いーよー。ひとりでたべるから。」

 「あっ、待って、うん、たべようたべよう。」

 「いーよーぉ。」

 「たべるたべる。」

 「絶対っ。」

 「、あんまりたべたくないけどぅ。あっ待って一緒に行くから。ねぇ。」

 マロンくんはあんなに向きになって走らなくても良いのに、どんどん行っちゃうから、リボンちゃんも小走りになって追っかけながらそれでも何度も笑いそうになって、走りながらふり返ったりするもんだから、ひゃひゃさせられて、マロンくんが怒るとほんとにこわいんだから。やっと追い付いて一生懸命手を引っ張ってまじめな顔になります。

 「うん、たべようたべよう。あっ、ねぇ、はやいってばぁー。」

 マロンくんは大急ぎでとまろうとして、前につんのめりそうになってこらえてしりもちをついて一回転しちゃいました。本当に元気なマロンくんです。

 「マロンくん、大丈夫ぅ。」

と半分笑うのを我慢するリボンちゃんでした。



 「痛くないの。」

 「別に全然大丈夫だよ。」

 「あっ、でもみかんたべなくて良かったの。」

 「別にそんなにたべたい訳じゃなかったよ。」

 「そうだよね、毒でも入ってたら大変だもんね。あっ、でも、そんな事ないよねっ、ねっ、ないない。…ねぇ、別に無視しなくたっていいのに。」

と口がとがると十円玉より小さくなって、ちょっとふてくされて下を向いたりにらみつけたり笑ったり。マロンくんはほっぺたが緩み出すと横に下に顔をそむけますから、身をひいて首を突き上げて、ちょうどおしりだけをでっぱらしたように様子をうかがうリボンちゃんは、そんな時、まゆげだけが息をしているように呼吸しているみたいにゆっくりと上に下にすばやく右に左に毛並みが動いたりします。目はじっとしてたりきょろきょろしてたり歩転んだり。

 「別に無視しなくたっていいのあっしてないしてない。そんなおこぉんなくたってあっおこってないおこってない、ほんとにマロンくん、ハハッ、ハハッ。ハ、ぅんぅん、何でもない何でもない。あっ、甲虫!」

 「えっ、どこ!」

 大きな声で指差した手をそのままにして、顔だけこっち向いたってウルトラマンじゃないんですからリボンちゃんもひょうきんです。

 「どこ!」

ってそんな必死になったって最初から甲虫がいてリボンちゃんがそう言ってる訳じゃないんですからマロンくんもおばかさんです。そのままの格好をしたリボンちゃんと顔が一生懸命になっているマロンくんですが、まゆげをくねらせてまぶたをねじって目でうったえて、それから最後に両手であやまったリボンちゃんに、別に身体をねじったりくねったりしている訳ではありませんから、そんなそらぞらしい訳でもないのですが、口だけ大きくあけて、あぁあぁ、と声を出さずに首をたてに二度三度ふるマロンくん。それに合わせるように、あぁあぁ、と声を出さずに首だけふってるつもりが身体もはずむリボンちゃん。

 「そんなおこぉんなくたってぇ。」

 「フフ、別に怒ってないよぅ。」

 「あっ、甲虫!ほんとに、ほらっほらっ。」

と空に向かって人差し指真っすぐ一回二回ひじが関節でまがって腕に躍動感があって顔はこっちに向いたり向こうに向いたり目が本気になっている。

 「甲虫だ!」

 白いヘルメットをかぶってビュンビュン飛んでる甲虫がものすごい勢いで近づいて来ます。マロンくんもリボンちゃんも目をつむって頭をひっ込めて、別にひっ込めるとこ何かある訳でもないのに。





甲虫を取りに行くことになったマロンくんとリボンちゃんは、ひょんなことから森の中に行くことになりました。

なぜって、二人は、白いヘルメットをかぶった変てこりん甲虫から森の招待状をもらったからなのです。



招待状 森にてもよおしものあり



「も・よ・お・し・ものって、なに?」

「何かあるんじゃないのう。」

「どうしようかあ。」

「どうしようかあ。」

「いってみようか。」

「うん、どうしよう、かあ。」

などと顔をのぞき込むリボンちゃんにマロンくんですが、何もわからず相談しながら、歩きながら、きょろきょろしてみると、もう、そこは森の中でした。

途中で道なのか、そうじゃないのかの区別もつかなくなって、何だか木がいっぱいになって、後ろをふり返って見ると、やっぱり木がいっぱいで、お日様もよく見えなくなったりしてきてふたりは心配になりました。

かがみながら肩をよせ合って、マロンくんは木の枝をかきわけながら、おでこのあせがたらたら落ちてきて、目をこすったりして、リボンちゃんははなれないように、マロンくんが一歩進むと自分も一歩といっしょうけんめいになりました。

けれど、だんだん、だんだん、前が見えなくなって来て、うしろも横も木でいっぱいで。

どこにも行かれないんじゃないか、と、帰れもしないんじゃないか、と、それでもこわくて、ふたりともそれを口から出して言えなくて、言ったらそれでもうダメになっちゃうみたいにうすうす感じられて、随分時間が経ったみたいに、全然時計が進んでくれないみたいにと、両方とが、心のなかにあって。

すると、向こう方から、どっちだろう、あっちの方かな、何か聞こえてくるのです。





一日中、うたってます。

折れたつばさでも、いつかとべるようになりますように。



『ブラックバード』より





光が見えて視界が開けると、それは、白い甲虫達のオーケストラであり、コーラスでありました。

森の演奏会が始まります。





かわいらしいこぶたがどろまみれ。

あなたは見たことがありますか。

そのかわいらしさにもかかわらず、まだ生まれてからそれ程たっていないというのに、これから先は悪くなるばかりです。

いつもどろにまみれてぐるぐるぐるぐる。

大きく成長した豚は、白いシャツを着せられて、やっぱりブーブー。

でも、どこにでもいるんですよ。



         『ピッギィーズ』より





おい、よく見ろよ、マーサ。すぐ目の前のそばだよ。



                    『マーサ・マイ・ディア』より





「何がいい曲?」

「わたしはブラックバード、かなっ。」

「ふうん、。そうなんだあ。なんで?」

「わたしがブラックバード、だから。」

「えっ、はねがこわれたの?」

「それは、まだ、わからないの。」

「ふうん。そうなんだあ。」

「なにが、いいの?」



二人が、ごそごそ、おしゃべりをしているうちに、演奏のほうは最後の大合唱となりました。

大合唱は大盛況のうちに終焉となりましたが、大合唱の余韻にこころおどらされて、それから、胸に何かさみしいような感じさえさせられて。こんな気分、味わえたら、それだけでも、生きてることに喜びを見つけた、喜んだ、なんて言えるかもしれません。

マロンくんとリボンちゃんも半分そんな気がしました。それで二人とも、少し、ボーっとしちゃいました。気がつくと、込み入ったうずの中に、お互いの姿が見えません。

えっ!どこ?