When I was a cat!





 我輩は猫である。名前はまだない。以前有ったような気もするが、覚えていない。

 先日、我輩は夢を見て驚いてしまった。

 それは、真夜中の事だ。何やら、わんわん騒々しい鳴き声が聞こえて来るので、目が覚めてしまった。

 「ニャンニャニャー!(にゃんだもう)」

 我輩は何やら夢を見ていたはずだったのだが、騒々しい鳴き声の所為か全然覚えていなかった。そんな事はどうでも良いが、ただ腹が立つのみばかりで、頭に来るところで、又、寝てしまった。

 すると、しばらくして、しばらくだかちょっとの間だか、随分経っていたのか、ボヤボヤしていてよく分からないが、又、わんわん聞こえて来る。流石に頭にガンガンし出して来て、こんなんでは、何のために寝ているのか、もっと寝ていたいというか、全く寝た意味がないと言うか、非常に腹立たしいというか、いづれにしろ、大概にしろ、いい加減にしろ、勝手にしちゃいかんと思って、

 「ニャンニャッニャニャー!(にゃんだってもぉう) ニャン(うし)」

と一発くだらない戯事をかまして、ぼんやりした闇のモヤモヤした霧のような夜の夜中に、我輩の声だけが高らかに鳴り響いて、ニャ〜ン、気恥ずかしい思いがした。序に耳をすましていると、何事もなさそうなので、それで、又、寝る事にした。嫌な事は忘れてしまえば何もなくなってしまう。に限る。

 ところが、又、わんわん鳴り出して、我輩は夢を見ていたのだが、こう、夢の続きが跡切れ跡切れになってしまっては、生きてはいけない。何でも、精神分析だとか、心理学だかで言うところでは、夢を見れないと死んでしまうそうであるが、夢を見るも見ないもものの十分も(もももももももものうち)寝かせてもらえなければ、その前に生きた心地はしないは、くたくただわ、早口言葉何ぞやってるばゃいではにゃい。誰にゃぃ、幾ら何(にゃん)だってもう許せにぇ。我輩が寝てる時にゃだけ、わんわん言い、にゃん、やがって、目を覚ますと、にゃん、どっかに行っちまいやがるんだにゃ、悪質な徒にゃぁ。 にゃんだぁにゃろぉ!

 布団から跳び出して、辺りを掛けづり回ると、行き止まりだ。三方がコンクリの壁でふさがれていて、ここまで来たら、あとにはひけないし、もう、加速がかかっちまってる。それ、跳び上がれ、ジャンプ、っ、前方に草っ原が満月である。月の微笑を見上げると、もう、ただじゃおかにゃあい、誰だ、どいつだ、こんにゃろぉ、ふらん、っんな訳なぇだろ。



 誰だい、一体、夜の夜中に騒いじゃないか。誰なんだい、言ってくれよ。いい迷惑だよ。寝られやしないよ。でも、まさか俺じゃないよね



『Who's crying now』より



 取り分け特別な事もなく、取り分け面白い事もなく、ただ、普段通りに型取られたお決まりの退屈茶飯事であるのみならず、日がな一日、取り分けする事のないままに、心の内より意味もなくだらだらくねってはさまよい浮かんでは消え浮かんでは流れ出ずるに又消えたり生ずるよしなき煩いをそのまま筆に取って字面を紙に浸していけば、その滲(にじ)むギラギラ小躍りする様の狡猾、時折、跳ね回る、真っ白に黒きぼんやりせせらう、何だ馬鹿野郎!何だあその醒めた顔は!何だあその骸骨の狡猾は!何だそのギラギラしたものわぁ!何やら不思議な程に締まりのない狂気沁みた心地がするのだ。



    『徒然草』より



 ところで、実のところ、私のそのものそのまま何たるかはただの猫なのである。そして、残念な事に、名前などというものには縁がなく、ペンネームという仮りの姿に身を包んでいる訳だが、生まれは、と思い描くところ、これまで何度も思い描けないでいる。更に悪い事に残念なのは、私には思い出も形見もない。つまり『あと』がない。それ故、これからお話しすることはただの戯事であるばかりなのかもしれない。



 昨日の前の日の事だ。つまり、一昨日の事だが、それで、普段通りにぶらついていると、何ら気を引くものもなく、何も食べるものもなく、それはそのまま別段変わりのない普段通りの事だか、胸の内にある事も、目の前に浮かぶ事もあってもなくてもどうでもいいような気になって、私は疲れ果てていた。途方に暮れて、それに何より少々不安になってしまっていた。それは随分と重要な事で、何故ならば、私がそのような気分になったのはこれまでほとんどなかった事なのだからである。雨は降りつけ、地べたにガミガミ文句を言い立てて、あるいは、しとしと物静かに気をめいらし、重くのしかかって、脳みそをふっとばすのであり、風は、怒鳴り散らしたりあくびをしたり、お日様は折角微笑んでくれたかと思えば一所懸命になり過ぎてカンカンになるし、少なくとも、我々、か弱く愚かな生物たちには怒りを覚えているような時もあったのだが。

 それは、その時だった。その小猫が現れたのはその時だった。

 「こんにちは。」とその小猫が言いました。

 「こんにちは。」とそこに居た猫が丁重に応ずると、振り向いても声の出所が見えない。

 すると「私はここ、松の木の下よ。」と又声がした。それは、小猫がニャーと泣くようだった。

 「どなたでしたか。」と猫は尋ね、続けて言った。

 「それにしても、随分ちぃっちゃな小猫ちゃんのようだけど。」



     『星の王子様』より



(と言っても、普通、小猫は小さいが、ちぃすぁわぁいが、だから、小猫と言うのだが、その小猫は小さくてかわいらしくて、かぁわぁいぃ、と言っても、普通、小猫は小さくてかわいらしいが、その小猫は普通以上にかわいらしくて、と言っても、かわいいだとかもっとかわいいだとか言ったところで、説明するのは非常に難しいが、と言ったところで、我輩は猫であるからしてその気になれば幾らでも説明の仕様もあるのだが、その気になったところで、にゃんにゃらにゃんにぁ にゃらにぁん、といった具合に要するに猫に関する語彙があまりにも少な過ぎるために説明の仕様が説明にならないのであるからして、別に責任逃れをしている訳では毛頭ないが、それは、何々という事ではない、というのは、その小猫が格別普通以上に、つまり、異常に、小さいという事であり、要するに、小さいのは普通にかわいいのは普通以上にリトルキトンという事であり、普通以下に小さいかと言えば、別にそうでもないが、と言っても、ちぃすぅわぁい、とか、もっとちぃすぅわぁい、とか言ったところで、その基準にしたところで、にぁんらゃらにゃんにぁ )

 「私は小猫です。」とニャーと鳴く。

 「突然ばったり偶然初対面で会って全然何も知らないひとにだって、最初に、ちらり、とやれば、そのままその通り君が小猫だって事は一目見るなり直ぐにそれと分かるように以前会った事があるようなもんだ。」

 「見ての通り、小猫ですけど。」とニャーと鳴く。

 「分かる。それはよく分かる、先も言ったようにだが、君は一体どっから来たんだい。ひとりなのかぃ。」

 「あっちの、向こうから、ひとりで。あなたはよくここに来るの。」

 「君の尋ねる事は成程尤もな事だが、それはさておき、君は今誰かに連れられてる訳ではなくたったひとりでここに居るのかぃ。」

 「私はひとりだけどぉ、どうしてあなたはここに居るの。」

 「それで君は大丈夫なのかぃ。」

 「別に大丈夫だけど、それで、あなたは大丈夫なの。」

 「私は全然大丈夫で君の言う通りで成程それは尤もな事だが、ところで君は何をしてるんだぃ。」

 「話をしてるんです。」と半分ニャーと笑う。

 「君は正しい。それは否めない。確かだ。だが、私の知りたい事は、本当には、君は何をしていたのか、であり、何をしている最中だったのか、であり、ほんのちょっと前迄に何をしたのか、であり、我輩の言い方が正確ではなかったのであり、それは済まないと思うが、私が知りたいのはその事です。」

 「あっちの、向こうの方から、そこら辺まで、歩いたりしてて、ここであなたを見付けたの。」

 「それで?」

 「見ての通り、小猫です。」

 「、ぁあ、私は猫だが、見ての通り。」

とニャーと鳴いた。







 兼好法師様、漱石様、サンテグジュペリ様、ポール・ギャリコ様



  無礼をばお許し下さい、ませ、ませ。