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プライベイトは、いつなの?
私が純を見付けたのは、今度彼女ができたら絶対に結婚しようと固く決意をしてから、そうでないなら彼女になんかはするつもりがないと、それでも、この女なら、と自分でもそう思えるような、そんな女にはなかなか出会えずにいて、そろそろ諦めかけている頃のことだった。
私は純に感じるものがあった。そうかと言って、純が結婚するのにふさわしい女だとはとても思えなかったのだが、純は私が逢いたいと、逢いたいという衝動にかられてしまうような女だった。要するに、私はいい歳をして、まだ若い小娘に恋をしてしまったのである。
純は、その言葉を借りれば、「あたしは誰から見ても可愛い、っていうんじゃないから。個性的、っていうの? そんな顔してるでしょ」ということだった。
確かにそれはそうなのだろうが、私にしてみれば、私は純が好きだったから、他の誰かがどう思おうとそんなことは関係のないことだった。ただ純にしてみれば、それは大きな問題だったのかもしれない。何故なら、純は夜の女だったから。
私は純を眺めながらに酒を飲んでいるといい気分になれるのだった。
それに、純ほど私の酒量の加減を知っている者はいなかった。純は私より、本人である私よりも私のペースが分かっていた。私にとってはこれ以上にはない位にまで、飲み口のよい、水での割り具合を心得ていた。その点はさすがにプロだと思った。
まだ知り合った当初の頃に、純が私にウーロン茶を何杯も何杯も飲ませたことがあった。あとで考えてみれば、もう少しでも酒が入っていたなら、吐いてしまいそうなところだったと思う。そして、それ以来は純が私の酒量とその加減とペースを間違えたことは一度もなかった。だから、私は純と一緒にいる限りは安心して酒が飲めるのだ。それで、余計に気分よく純を眺めていられるのだと思う。酒と女がこれ程までにいいコンビネーションであるからこそ、今の私は何とかやっていけるのかもしれない。そうでなければ、私はとっくの昔に駄目になっていたのかもしれない。純と知り合う以前の私は何の目的もなくて、ただその日暮らしをしていただけだったのだから、正直を言えば……
もしかしたら、私は単に疲れているだけだったのかもしれない。それでも、私は、それならそれでそれでも好きなのだから、それはやむを得ないことだ、などと変な割り切りをしている。ただ純に対する気持ちはなかなか割り切れるようなものではないけれども。
私は純を自分のものにしたくてたまらない。純を縛り上げてしまいたい。拘束したい、完璧に。心も体も、純のすべてが欲しい。純を我がものにしたい。純を支配したい。
それから、やっぱり私は純にほれてるだけなのかもしれない。
ところで、私と純が知り合ったのは、ほんの些細なことからだった。
年の暮れも迫った時分に同窓会があって、中学時代の野球部の時のものだったのだが、皆それぞれにそれぞれなりの事情もあったのだろうか、二次会が終わると、私ともう一人だけになってしまい、そのもう一人が商売をやっていて羽ぶりがよく、金のことなんか気にしなくてもいいから、もうちょっと別の所に飲みに行かないか、と持ちかけられ、私も何だかこれで終わりにしてしまうには、もうちょっと飲みたいなぁという気分だったので、それに財布の中身を心配する必要もないとくれば、その誘いに応じない訳もなかった。
そして、彼は女の子の付く所でないとつまらないと言いだし、それで三件ほどはしご酒をして、私は仕事の帰りに上司に連れられて同僚達とそういうお店に行ったことがある位で、プライベイトではそういう所に行ったことがなかったので、全然知らない女の子達と浮ついた戯言を交わしてるだけで、とっても楽しめることができた。でも、こういう遊びが病みつきになってしまったら、というような不安を抱かなかった訳ではないのだが。
それで、三件はしごをしたと言ったが、そのうちの一件にちょっと変わった感じの娘がいて、それが純だった。
純はその店のママさんに紹介され、「純です。よろしくお願いします」とハスキーな声で現れた。背が高くてやせていて顔は真っ白だった。あとで聞いたら、酒が入ると白くなるということだった。その時の私はとりわけ美人だとは思わなかったが、変に浮ついた、普通、こういう所にいそうな、「何々です。よろしくお願いしまぁ〜す。えっ、どうしたんですか? 何か盛り上がってませんねぇ」といきなり口にするなり、強引に割って入って来るような、不自然なまでに笑いを作っていくような、純はそんな娘ではなかった。
純は多少遠慮がちに、ソファーからその華奢な体を折りたたむようにして、私の隣りに腰掛けた。かしこまって行儀よくしていたが、それでも、随分と長い脚をしているため、机を跳び越える位にひざがとんがっていた。私は私の目の前に跳び込んで来る、そのきれいな脚に、まず、気をとられた。そして、自分からはなかなか話しを始めようとはしない、それでいて、自らの肉体の美のためから傲慢にふる舞う訳でもなく、静かにつぐんでいる、その小さな口の控え目な可愛いさに、まじまじと目をやってしまっていた。それから、上向きになると余計に切れ長になる、その二重のまぶたから覗ける瞳の丸っこさに、ほとほと、まんじりと可愛げを見いだしていた。ただ、かしこまって行儀はよくはしていても、それでも、その背の高さのせいだろうか、猫背になりがちな姿勢を残念に思った。それは、私がいちいちなんだかんだと、金を払ってるんだからと高慢ちきにグチョグチョと文句もたれたくもなるという訳ではなく、こんなにいい素材をしているのにもったいない、あぁ、もったいないと嘆きたくもなるような心持ちだったからだ。
後日談になるが、私は純に、
「せっかくそんなにスラッとしてるんだから、もっと背筋を伸ばせばいいのに」
と、それでも、納得のいかないような口調で応対する純に対して、
「だから、スタイルのいい女が姿勢を悪くしてると余計に格好悪く見えるんだよ」
と強く言っても、純は、
「それはハト胸だったら、そうかもしれないけどぅ」
とか何とか随分と自分の胸に自信がないようなので、
「だから、姿勢をよくしていれば、胸が大きいとか形がどうのこうのとは関係なく、格好よく見えるんだってばっ! 特にスラッとしている女は姿勢をよくしていれば、胸が小さくったって、それが逆に武器になるのっ!」
って何だか怒鳴っちゃったんだけど、それを聞いてたママさんも、
「そう。ほんとにその通り。そうだよ、純ちゃん」
なんてこと言ってくれて。そしたら、純も何となく分かったような、分かってないような様子ではいたんだけれど、その後の純はその姿勢で胸を武器にしているような、ひきたたせているような案配だった。それを私はほれぼれと見とれながらも、
「姿勢、よくなったね」
などと、それ以上のことは誉められずに、やはり照れというものがあるから。
それで、話しを戻すと、純を初めて目にした時の、その日の私はもうすでにだいぶ酔っていて、あんまり確かな記憶ーーどんなことをしゃべったか、とか、どんな具合に仲よくしていたか、とかということーーは残ってはいない。
きっと、偶然に純と再会していなければ、そのまま忘れ去ってしまっていたのかもしれない。が、しかし、その後の私の純に対する溺愛ぶりからすれば、余っ程、その時の私は飲んでいたのかもしれないし、というよりも、このような席でのことは、本当に、その場限りのこと、ほんのひと時の戯れ、としか考えてはいなかったためだろうかとも思える。 ひとつ、純が口にしたことで覚えていることがあるとすれば、それは、
「あたしはこういう仕事をしているのに人見知りしちゃうから」
「じゃあ、何で俺なんかとは、こんなにたくさんしゃべってくれるの?」
「それは、しゃべり易くしてくれるから。うん。こんなに話し易い人って、あたしがこういう仕事を始めてから、本当に滅多にいないもん。初めてかも。今までにいなかったかもしれません」
「そうぉ?」
「うん。ほんとに。それは本当にお世辞じゃなくて」
とか何とかというようなことだった。
これは、今にして思えば、純がこの世界で生きて行くための術だったのかもしれない。でも、ひょっとしたら、私をひきとめようと、そうしたのかもしれない。そうだとしても、それも術だったのかもしれない。けれども、私にだけは、と、そう思えないこともなかった。それも、そんな気にさせるのが術だったのかもしれない。
こんなことを考えていると、どこまでがほんとで、どこまでが嘘か? いつまでが仕事で、プライベイトは、いつなの? と聞いてみたいものだが、私にはそんな勇気はない。 ところで、純を華奢だと言ったが、それは私の思い違いだった。
純は確かにやせてはいたが、骨格は意外とシッカリしていた。初対面の時は、今言ったような事情もあり、見ているようで、あまりちゃんとは見てはいなかったのだろう。
が、背が高くて骨格がシッカリとしているからこそ、やせてはいても、純はいい肉付きをしていたのだろう。それが、また、私の好みでもあった。
何だか、こんなことを話していると、私がただの助兵衛親父のようにお思いになられる方もあると思うが、たぶんにたくさんおられるのだろうが、私はただの助兵衛でもなければ、親父でもない。
実を言えば、まだそんなに歳を食ってる訳でもなければ、ただの助兵衛でもなく、そうかと言って、自分が助兵衛であることを否定している訳でもない。
私は多少変態じみているか、もしかしたら女というものに、或は、性というものに、柄にもなく幻想を抱いているかのどちらかなのかもしれない。
私は純と南の島で、お日様が出ている間は露出度は多くてもいちゃつくだけで、いくらエッチがしたくなっても、その時の夜が来るまでは、たまりにたまっているものをためるだけためておきたい、楽しみは残しておきたい、けれど、その時の、その、はちゃめちゃにエッチをすることを思うと、我慢ができなくて、でも、その時までは純に指一本触れるつもりがないのだから、ひとりで悶々としながらも、ひとりでエッチをして、我慢をするつもりでいる。けれども、純を想いながらのひとりエッチが、実は、これがなかなかいい気持ちなのである。
しかし、私がこんな助兵衛根性からくる夢想を抱くようになったのは、純の水着姿を目にしてから後のことである。それ以前の私は純粋に、この可愛い娘を大切に大事に大事にしていたいだけだった。それは、無論、今でも大切に思ってはいるし、実際、そのように接しているつもりでもいるのだが、今の私にはそういった煩悩がある。それが、また、私の純に対する割り切れない想いを膨らませるのだろう。そんな私の胸の内を知らずにいるのか、或は、知っているからこそ、わざと私を刺激しているのだろうか? 純は私を揺さぶるのである。
純は夏を前にして、今、おへそに穴をあけてるの。早くビキニになりたいから。でも、かゆくてかゆくて、などと口にしては跳ねるようにしていた。それから、あたしは一週間でやせられるから、と自慢げに話してきかせるのだった。
だが、実際には純がその肢体を私の目に触れさせた時、その肉体のはちきれんばかりは凄いものだった。それは、純が自分のそれをどう見なしていたかは別として、立派な色の気をプンプンと匂わせているものだった。が、その、せっかくの立派な体を堂々とはさせずに、純はその大胆なカットのビキニ姿を恥ずかしく思っていたようだ。
何故なら、私と純は仲違いをしてしまっていて、真夏の果実を楽しむはずの頃には全く接触がなかったので。
それでも、やっぱり私が純に逢いたくなって、連絡をとり、突然、その日海に行くことになっていた純の所へと駆けつけたのである。だから、純にしてみれば、その姿を見せるつもりで見せた訳ではなかったのである。それで、純は合わせるのにも合わせずらそうな顔をして、
「太ったでしょ。やせなかったんだ」
と、少しばかりしょんぼりして、言いにくそうにしていた。
純との出会いはその後、私に大きな影響を与えたのだが、さっきも言ったように、私はその出会いそのものを、その時にはたいして重くは考えていなかった。だから、純が帰りの際、あたし、この店は今日でやめるんです。でも、とか何とかと、何だかカタカナの別の店でも働いていて、今度はそこに来て下さい、とか何とかと、一生懸命に何かをお願いしているようではあったんだけど、私には関係のない世界のことだから、と、もう二度と来ることもないだろうと思い込んでいたから、適当に受け流してしまったのである。
だから、縁というものはあるものなんだろうなぁ、と、不思議に思わずにはいられないのである。
何故って、それから、年が明け、二月になり、私はある友人には、あぁ、どこかにいい女いないかなぁ、なんて愚痴をこぼしたりしていたからである。今度彼女ができたら絶対に、どころか、今度そういう機会に恵まれるのは、恵まれないかもしれないから、どうか神様お恵み下さい、とでも心底お願いしたい位な心境の私だったから。
ところが、これがまた中学時代の野球部で一緒だった、暮れの時の同窓会には参加できなかった昔の仲よしと私と、もう一人の仲よしと、要するに、三人で仲よしだった訳なんだけれども、その三人で飲んでるうちに、カラオケに行こうということになって、ところが、ところが、もう一人の仲よしが、「もち合わせがないから、カードの使える所でなければ」ということになり、それで、ちょっと高くつくかもしれないけれど、そういうお店に行ってみるか、ってことになり、それで、どこかで見たことあるなぁ、でも、知らないはずだよなぁ、でも、可愛い娘だなぁ、なんて思ってたら、向こうの方から、
「逢ったこと、ありますよねぇ」
とか、いきなり言われたもんで、びっくりしたけど、嬉しかった。それはその時に本当にそう思えたのを今でも覚えている。何という偶然だろうか! 偶然にしてはそれにしてもすごぉ過ぎるぅ〜。凄い!
それで、私は純とすぐにその場でうちとけることができた。それでも、お互いに気遣うようなところもあり、相手の反応をみながら、次の言葉を探すのにも慎重になったりと、私は純を、こっちは金を払っているんだから、存分に楽しませてくれなければ、と、それが当たり前だろ、というような、別の目でみているようなことは全くなく、普段、女の子と知り合った時と同じように、或は、それ以上に親切に、仲よくなりたいから。私はすでにその頃から純にひかれるものがあったので。
それから、純は私のリクエストに応えてくれて、『未来予想図』を歌ってくれた。それはこの歌をあまり歌い慣れたものではなかったので、そのことがまたより一層、私を喜ばせてくれるものとなった。一生懸命に一言々々ていねいに口にしているものだから、私は純がとっても愛らしく思えて、いい子いい子と、その頭をなでてあげた。もっと近づいて、もっと触りたいとも感じたけれど、スキン・シップ、そう、スキン・シップだよ。そんなに凄いことはできないよ。それに、私の、純をなでる手の平はくすぐったくもあり、その腕はぎこちないものだった。そして、何だか私は緊張していた。そんな私と純との接し方が回りからはそんなに親密に思えるものだったのだろうか、純の仕事仲間には、
「知り合いなの? 前からそんなに仲よかったの?」
などと質問されて、私は悪い気がしなかった。純は純で簡単に私とのいきさつを説明していた。それがまた悪い気がしないものだった。
私はいい気分でいたのだが、そろそろ閉店のような気配になってきて、急に落ち着いてなんかいられなくなった。すると、純は私に名刺をよこした。私はもっと一緒に逢える機会が欲しかったから、
「裏に自宅の電話番号は書いてくれないの?」
と、押してみた。そしたら、純はスラスラとメモしてくれた。私が、家の人の中で、別の誰かがでたら、なんて言ったらいいの? とそれを心配に思うと、あたしの部屋にある電話だから、あたし以外にはでない、と安心させてくれた。そこで、ここは言わなければ、と、私はその時の正直な気持ちを声にして、
「まだお店がやってるなら、このままここで君と話しができるだけで、それだけでもいいんだけど、もう終わりなら、どっか別の所で、どこでもいいからもう少し話していたいんだけど」
と、もう一度押してみた。恐る恐るだったけど、もう一歩、もう一歩とよい返事を心から期待していた。すると、
「二時位までだったら」
と、あっさりOKしてくれた。それで安堵した。 |
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