|
美代ちゃん
美代ちゃんは実は真面目な女の子だった。僕が大学3年生の時の新入生だった。
サークルには新入生歓迎期間中はおろか、そろそろもう夏だなぁ〜という頃になって、
1年生の女の子2人組が入会してきた。2人とも器量がよく、そのうちの1人が美代ちゃんだった。
その頃の僕はゼミや兼部していた文章を書くサークル、後に本業となった塾講師のアルバイトなど、
忙しい毎日を過ごしていたので、僕らのサークルにはあまり顔を出さないでいた。
でも、その頃の僕は忙しいといっても、公的には凄く忙しかったけれども、私的には全くの『ひまじん』だった。
バブルの華盛りし頃で、誰もが恋愛に夢中になり、イベントというイベントが持てはやされてた頃だった。
心の傷が癒えないで、恋愛から遠のき、私事では物静かな生活を僕は送っていた。
サークルの夏合宿にも塾の夏期講習の都合で、最後の1泊2日しかできなかった僕は、
清里のバンガローに着いたのは夕暮れ間近の夏なのに涼しげで穏やかな陽気の時間帯だった。
バンガローには誰もいなくて、管理人の人に尋ねると、皆、テニスに行ったということだった。
サークルで借りている幾つかのバンガローのうちで、僕が使ってもいいのがどれか分からなかったけれども、
中のある転がっている荷物を見て、ここらかな?と、そのうちの1つの中で腰を下ろした。
ほどなくざわめきが聞こえてきて、こじんまりとした集団が近づいてきた。僕はそろりと外に出て、
「どうも、栗山です」
と、愛想笑いをした。ちょっと気恥ずかしかった。
「おう、珍しい奴がいるなぁ」
と、4年生に茶化され、同級生からは、
「ほんと珍しいひとが来たわね」
と、
「ほんとほんと」
と声をそろえられた。
「あの人が栗山さんですか?」
と、見知らぬ顔が映り、そのうちの1人が美代ちゃんだった。僕が美代ちゃんと会ったのは、その時が初めてだった。
僕は集団に歩み寄り、集団は笑顔で迫ってきた。余程テニスが盛り上がったに違いない。
「僕もテニスしたかったな」
と、ちょっぴり悔しかった。
集団の真ん中に3人の女の子が並び、2人組で仲のよさそうな新入生が2人、
2年生だけれども新しく入会してきた女の子が1人、かつて仲良くしていた仲間たちが男も女もいい汗かいて、
黄色い声出して、野太い声も交じり、そのうちの代表格だった、その時にはサークルの会長になっていた、
女の秋吉が得意のゲラゲラ笑いをしながら、ほんとに機嫌よく嬉しそうにニューフェイス3人を紹介してくれた。
1年生の2人組が杉村さんと中沢さんで杉村さんが利奈ちゃんで中沢さんが美代ちゃんで、この2人が
利奈ちゃんと美代ちゃんで、下の名前を皆が呼んでいたので、姿、顔、形の区別はできたけれども、
利奈ちゃん美代ちゃんと名前が跳び交うので、その当時、3年にもなってまだ『不器用』だった僕には、
利奈ちゃん、美代ちゃん、という名前が混同し易かった。会話の中で、時折、指差しながら、目が合った時に、
「えっと、利奈ちゃんだっけ?」
と、
「えっと、美代ちゃんだっけ?」
と、
「違います」「そうです」
と、当たったり外れたりした。その度に2人が盛り上がってくれて、
「私が利奈です」
と、
「私が美代です」
と、言う具合に半ばアピールしてくれて、意外と新鮮に妙に照れるような、でも、すぐに仲良くなれたような、
正直、嬉しいような、でも、外目ではあんまり喜ばないように気をかけていたような・・・
それから、2年生の女の子が須山さんで須山さんは須山さんと呼ばれていた。須山さんはキツそうだったけど、
やっぱり美人の部類に入る女性だった。その時、その場で紹介された時にはあまり口を開かなかったが、
夜になって、たまたま2・3人で固まりになった時などには凄く会話が弾んで、と言うよりも理知的な言葉が、
ハキハキとした声が、テキパキとした言動が強く印象に残っている。
とにかく3人とも個性的で、利奈ちゃんはノリが軽いと感じられるくらいにペチャクチャおしゃべり上手で、
それに続いて、美代ちゃんの声も弾むという案配で・・・
とにかく3人とも美人だった。
秋吉が嬉しさ一杯に、笑い転げるくらい、
「ねぇ、ほんとに可愛い子ばっかり3人も女の子が入ってくれたでしょう」
と、何度も何度も繰り返していた。
「こんなに可愛い子が3人も入ったんだから、栗山くんも先輩なんだから、ちゃんと可愛がってあげてよ」
と、真剣な眼差しで、これまた何度も何度も秋吉は繰り返していた。
「でも、栗山くんが先輩っていうのもおかしいけどね。でも、一応先輩なんだからね。栗山くんが先輩かぁ〜
ハッ、ハッ、ハッ・・・」
と、僕も内心嬉しくて、それが顔に出ないように、出ないようにと、吹き出しそうになるのをこらえるのが、
これまた妙に全然悪い気がしなかった。たった1泊でも来てよかったと思った。
でも、『女』を感じたのは3人とも素敵だったけど、美代ちゃんだけだった。僕が年下の女の子に対して、
そんな気持ちを抱いたのは、そして、そんな自分の気持ちに自分で気づくまい気づくまいとしたのは、
年下の女の子では美代ちゃんが初めてだった。美代ちゃんとすぐに仲良くなれてよかったと思うのを、
それを表面的なものに止まらせようとする思いと、でも、いたずらっぽい視線が妙に強く感じられて、
これはいけない、気がゆるんだらノックアウトさせられるという恥ずかしさを越えた、怖ささえ感じられて、
会話の進行とともに、どんどん、どんどん、なついてくる3つも年下の女の子に会話を楽しみながら、
その時は何とか自制心が保てたものだった。
でも、何かと、
「栗山さん、栗山さん、
と、なついてくる『後輩』に、
「俺も先輩かぁ、あんまり先輩らしいことしたことないんだよな」
と感じたりした。
夏の青々とした山の中で、1泊2日!いい出会いだった。けれども、発展を望んだらいけないと、
いけない、いけないと心に決めた。
この子の瞳を見ていると、本気で好きなったら、ふり回されると、いい子だったけど、
無邪気に知らず知らずのうちに、この子は男を迷わす『女』だと思ったから、でも、だから、
年下なのに美代ちゃんに『女』を感じたのかもしれない。
でも、美代ちゃんはほんとにいい子だった。
真面目だった。
ただ僕は尋常では考えられないくらい恥ずかしがりやだったので、いつの頃か、いつの間にか、
恋の顛末を恋する以前から予感し、震え、逃げてしまう悪癖が備わってしまっていたのだった。
でも、美代ちゃんはただ真面目であるばかりでなく、真面目に真面目に僕に近づこう、近づこうと
してくるようになったのだった。
3年の夏合宿が終わり、3年の夏休みが終わり、又、普段通りに公的には忙しく、私的には物静かに、
という生活が落ち着いた頃、サークルの掲示板があり、僕らの集まり場所となっていた、
5号館のロビーにソファーが点在していて、ガヤガヤとした群がりの中に1人、ポツンと美代ちゃんが
腰掛けていた。僕はちょっと珍しく時間的に余裕があったので、美代ちゃんに近寄り、美代ちゃんも
僕に気づき、僕は美代ちゃんの真向かいに腰を下ろした。
「やぁ、美代ちゃん、1人で何してるの? なんか元気ないね、どうしたの?」
「ひまなんですよ、私、いつも3限と4限がなくて、その間、時間をつぶしてサークルに出てるんですよ。
毎週、サークルのある日は、3限と4限をもう何時間も時間をつぶしてサークルに出てるんですよ」
「あぁ、今日、サークルの日だったね」
「栗山さん、今日はサークル出るんですか?」
「うん、一応出るつもりだけど、今から部室に行かなきゃならないんだ」
「部室って、栗山さんが入ってる、もう1つのサークルの方ですか?」
「うん、そうだよ。でも、そんなに急いでないから、それになんかつまんなそうに腰掛けてる美代ちゃんを
見つけたから、今、ちょっと話しかけてるんだけど」
「もう、ほんと退屈なんですよ。あたしサークルに出るためにサークルのある日は、毎週毎週、1人で
こうしてるんですよ」
「そうなんだぁ、偉いね。そう言えば、美代ちゃん、僕がサークルに出ると、必ずいるもんね。しかも、
3限も4限も授業がないのに、それでもサークルに出てるんだから、ほんとに偉いじゃん」
「はい、毎週出てます。でも、それまでがひまなんですよ。栗山さん、遊んで下さい」
「えっ、何でよ」
「だから、サークルのある日は3限と4限の間の時間、一緒に遊んで下さい」
「えっ、だって、美代ちゃんなら遊んでくれる子、たくさんいるでしょ。美代ちゃんだったら誰でも
相手してくれるんじゃない」
「誰も遊んでくれないですよ。ほんとにひまなんですよ。だから、栗山さん、遊んで下さい」
「あれっ、だって、美代ちゃん、彼氏いたよねぇ」
「いるんですけど、この時間は1人なんですよ。誰も遊んでくれないですよ。だから、栗山さん、
遊んで下さい」
「そんな、彼氏のいる女の子と一緒に遊んだりできないでしょう。そういうのはよくないでしょう」
「じゃあ、彼氏がいなければ遊んでくれるんですか?」
「ハハッ、そういうことは彼氏がいない時に言ってよ。それは、彼氏がいないんだったら、考えるよ」
「じゃあ、彼氏と別れたら、彼女にしてくれますか?」
「だから、そういうことは彼氏と別れたら言ってよ」
「じゃあ、彼氏と別れたら、彼女にしてくれるって約束してくれますか?」
「そりゃ、約束はできないよ。でも、彼氏がいないなら、考えるって言ってるじゃん」
「えぇ、じゃあ、あたしどうすればいいんですか?」
「って言われても何とも言いようがないけど、
「じゃあ、とにかく遊んで下さい」
「うん。でも、そろそろもう1つのサークルの部室に行かないと」
「もう1つのサークルって、文芸工房でしたっけ?」
「うん、そうだよ。よく知ってるね」
「あたしも文芸工房に入りたいんです」
「えっ、何か書きたいの? それとも文学とかで何か談ギでもしたいの?」
「特にそういう訳じゃないんですけど、でも、栗山さん、文芸工房の部室によくいるんですよねぇ」
「うん」
「だから、私も文芸工房に入れて下さい」
「えっ、そりゃ、まずいよ。そういうのは、よくないよ」
「何でですか?」
「だって、それだったら、サークルに2つ入ってる意味ないし、それにサークルの運営には僕はもう関わってないけど、
活動には参加してるし、その時、会えるじゃん」
「そうかもしれないですけど、でも、たまに、ですよね」
「あぁ、そうかもしれない。でも、活動には参加できなくてもサークルに出た時にちゃんとした意見が言えるように
自分なりの考え方を身に付けようと取り組んだり、出れない時でも、自分で時間作って準備したりしてるんだよ。
それに出た時には、実際、結構まとものこと発言してるつもりだよ」
「それは確かに、そうです」
「そうでしょう。こっちのサークルの方だって、ちゃんと活動してるつもりなんだよ。それに出てないっていっても、
2〜3週に1回は出てるつもりなんだけど」
「2〜3週に1回なら、いい方ですよ」
「あぁ、確かにあんまり出れない時もあるけど」
「そうですよ。せめて、2〜3週に1回とか、できれば毎週出てほしいですよ。半分はそのために、毎週毎週、
3限と4限、時間つぶしてるんですよ」
「あぁ、そっかぁ。ごめんごめん。なるべくサークルには出るようにするから、って言っても、やっぱり忙しいから、
2〜3週に1回になっちゃうんだよね」
「栗山さん、ほんとに忙しいみたいですけど、彼女とか、いるんですか?」
「いないよ」
「じゃあ、どうして忙しいんですか?」
「あぁ、だから、俺って、公的にはもの凄く忙しいんだよね。ほんとに忙しい。でも、充実してるけどね。でも、
私的には全くの『ひまじん』で、彼女なんかいないよ」
「それって、ほんとなんですか?」
「ほんとだよ」
「じゃあ、いつから彼女、いないんですか?」
「あのねぇ、美代ちゃんは僕に対して、こんなこと言うのなんだけど、本当に美代ちゃんは僕に対して真面目に
接してくれるから、正直に話すけど、僕は生まれて22年、彼女ナシだよ」
「えっ、彼女がいた時がないんですか?」
「そうだよ」
「それって、
「そう、僕はね、童貞なんだよ。普段はこんなこと絶対に言わないけど、美代ちゃんが本当にたまにしか会わないけど、
本当に真面目に接してくれるから正直に言うけど」
「それって、本当なんですか? その噂はほんとなんですか?」
「そんな噂あったんだ? でも、美代ちゃんだから正直に話したんで、絶対に内緒だよ」
「はい」
「でも、俺って、凄く遊んでるって噂もない?」
「そういう噂もあります」
「そう、それでいいの。何でかっていうと、そういう噂があるから、巧くごまかしたり、逃げられたりできるんだよ。
だから、俺がよく遊んでるって噂があるから、逆に助かってるんだよ。だって、大っぴらにあからさまに
俺が童貞だってことが知られちゃったら、もしかして、変な女にイチコロにされちゃうかもしれないでしょ。
それって、困るし、だから、美代ちゃんだけには言うけど、俺についての本当のことは絶対に誰にも言わないでね。
いい?」
「はい!」
「ほんとに誰にも言わないでよ。じゃないと、ほんとに変な女にイチコロにされちゃいかもしれないから、だから、
ほんとに内緒にしてよ。冗談抜きで、絶対、誰にも言わないでよ。お願いね」
「はい。絶対、誰にも言いません。絶対に内緒にします」
「うん、よろしくね。美代ちゃんだけに言ったんだからね。こんなこと人に話したの初めてだよ」
「あのぉ、1つ聞いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「栗山さんは何で彼女を作らないんですか?」
「うーん、その話しをすると、又、長くなるから、それは今度、話すよ。じゃあ、またね」
「あのぉ、今度って、いつですか?」
「いつとは言えないけど、こんな感じで、又、話そうよ」
「はい」
「まぁ、ちょっと変な話ししちゃったけど、美代ちゃんならいいかなぁ〜と思って」
「ほんとですか?」
「うん。又、必ず、今度」
「はい。是非お願いします。又、話したいです」
「あの、こんなこというとなんだけど、今日は結構しゃべったよね?」
「はい」
「こんな感じで話せたら、少しは満足してもらえたかな?」
「はい、満足です。っていうか、今までで1番満足ですし、大満足です。ほんとに、又、こういう風に話して下さい」
「うん、時間がある時なら、それに、こんなんでいいなら、又、話そうよ」
「はい。ほんとに、又、今度こんな風に話して下さい。なんか今日は栗山さんと、ちゃんと話しができたって感じがして、
ほんとに大満足です。凄く嬉しいです。おまけに栗山さんの大切な秘密まで教えてもらって、絶対に内緒にします。
でも、ほんとのほんとに、それって、ほんとのことなんですか?」
「それって、俺が経験がないってこと?」
「はい。ちょっと信じられないくらいです」
「ハッハッハッ、美代ちゃんも俺が凄く遊んでるっていう噂、やっぱり結構まともに、そっちの方が当たってるって思って
たんでしょ?」
「そういうつもりだった訳じゃないんですけど、やっぱり信じられなくて、ほんとに今までに1度も彼女がいた時がないん
ですか? 何度も同じこと聞いて、しつこいようですけど、ほんとですか?」
「ほんとだよ。って言うか、俺、キスもしたことないし」
「それって、ほんとなんですか?」
「ほんとだよ。だから、僕みたいな男には美代ちゃんみたいで年下で、凄く可愛くて、とってもいい子を年上の男として
リードするなんてこと、できやしないよ」
「1つ、聞いてもいいですか?」
「1つ聞いてもいいですか?って、もう色んなこと、もう随分たくさんしゃべり過ぎちゃっているようだけど、まぁ、この際だから、
それに美代ちゃんだし、何でも話してもいいかなって思ってるよ。美代ちゃんいい子だし、ほんとに内緒にしてくれそうだから」
「じゃあ、この際だから聞かせてもらいたいんですけど、栗山さんの好みの女の子って、どういう子ですか?」
「それがね、分かんないんだよ」
「分かんないって、どういうことですか?」
「だから、今まで22年間、女の子と付き合ったことがないから、好きな女の子のタイプなんて分からないし、まだない、
って言い方が正確なのかなぁ」
「でも、女の子を好きになったことはありますよねぇ?」
「そりゃ、勿論あるけど、本気で好きになったのは何人かだし、っていうか、せいぜい2・3人、でも、ちょっといいかなぁ、
とか、なんかいいなぁ、とか、そのぐらいの気持ちだったら、結構意外とよくあるんだけどね」
「じゃあ、そのいいなぁ、って思う女の子の共通点とかはないんですか?」
「あのさぁ、俺って印象派だから、っていうか、印象派の瞳と少年の心がセットになってるみたいだから、タイプって
言われても、ほんとに分からない」
「印象派の瞳と、少年の心ですか? 印象派の瞳って何ですか?」
「あっ、だから、印象派の絵は知ってるよね?」
「はい。モネとかがそうですよね?」
「そうそう、そう!そういう印象派の絵とかのように仕草とか表情とか、何と無くぼやけて見えたりするんだよね。
そういう印象というか、もっと分かり易く言うと、イメージだよね。そういうイメージで、いいなぁ、って思ったり、別に
いいなぁとは思わなかったり、
「あたしはどうですか?」
「だから、美代ちゃんはいい子だし、凄く可愛いし、お利口さんだから、イメージにするまでもなく、いいなぁ
って思うよ」
「ほんとですか?」
「ほんとだよ。イメージにするのが怖いくらいだよ」
「どうしてイメージにするのが怖いんですか?」
「だって、美代ちゃんは普通にパッと見ただけでいいなぁって思うし、っていうか、正直を言うと、凄くいいなぁ
って思ってるよ」
「ほんとですか?」
「うん。だから、イメージにするのが怖いんだよ」
「それをもう少し分かり易く教えてもらえますか?」
「だから、ただでさえ、いいなぁって思ってるのに、結構意外と凄くいいなぁって思ってるのに、それを印象派の瞳で
イメージしたら、本気で好きになっちゃうかもしれないじゃん」
「好きになって下さいよ」
「それは怖いね。僕の少年の心じゃ、ほんとに好きになったら耐えられないよ」
「大丈夫ですよ」
「だから、大丈夫じゃないから怖いって言ってるんじゃん」
「大丈夫です。だから、彼女にして下さい」
「やぁ、それは怖いよ。だって、美代ちゃんのこと本気で好きになって、それから、やっぱり申し訳ないですが、
とかって裏切られたら洒落にならないじゃん」
「そんなこと絶対にしません」
「じゃあ、美代ちゃん、俺をリードできる?」
「それはお互いに徐々に徐々にしていけばいいんじゃないですか?」
「ほらっ、だから、駄目なんだよ。俺はその『徐々に徐々に』ってのが分からないし、たぶんできないと思う」
「それはたぶん、栗山さんがそういうことしたことないから無理って思うだけで、やれば誰だってできることですよ」
「じゃあ、1つ聞くけど、美代ちゃんセックス上手?」
「それは分かりません」
「分かりませんって、どういうことよ。美代ちゃん彼氏いるし今の彼氏の前にも美代ちゃんだったら彼氏がいたって
おかしくないし、分からないって言っても俺よりは分かってるはずだし、だから、聞き難い事だけど、正直に、
俺だって正直に話してるんだから、美代ちゃんは女だから答え難い事だろうけど、ある意味、大胆だろうけど、
ちゃんと聞いておかなきゃと思って、こういう質問してるんだけど、ねぇ、正直に教えてぇ。セックス、自身ある?
それにデートしたり、そういう段取りとかでも美代ちゃんリードできる?」
「だから、それは『徐々に、徐々に』お互い力を合わせていけばいいんじゃないですか?」
「だから、その『徐々に』ができないから、分かんないから、美代ちゃんいいなぁって思っても、カップリングと
しては俺には到底無理だと思うし、だから、俺には同い年で世話好きな子とか年上の女の人とかじゃないと
無理かなぁって思ってるんだけど」
「年は関係ないですよ」
「いやぁ、やっぱり、年は関係あると思うなぁ。俺には年下の女の子をリードするなんて無理だし、それに
セックスだって、そういうこと上手な女の人じゃないと、やっぱり駄目なんじゃないかなぁって思うし、
美代ちゃんのこと、すっごくいいなぁ、こんな女の子好きになれて彼女になってくれたら嬉しいだろうなぁって、
今まで味わったことのない『幸せ』みたいな気分とか味わえるだろうなぁ、とかって思うけど、色々話してみて、
やっぱり僕と美代ちゃんっていうのは無理なんじゃないかなぁ、って思うけどね」
「そんなこと言ったら私だって自信ないですよ。でも、そういうことはお互いの気持ちがあれば、どうにかなると
思います!それに私だって、彼氏はいますし、今の彼氏の前にも彼氏いたことありますけど、そんな大した
付き合いとかしたことないですし、だから、栗山さんと大して変わりません」
「でも、彼氏が今までに何人かいたっていうだけで俺よりは経験豊富な訳で、俺は彼女いない歴22年だし、
セックスどころかキスもまだしたことないし・・・
「あたしも彼氏はいましたが、経験豊富だなんて、そういう経験は私もありません」
「えっ!?」
「だから、さっきから大した『付き合い』はしたことがないって言ってるじゃないですか!」
「それって、処女ってこと?」
「はい」
「うそおー?」
「ほんとです」
「じゃあ、今までの彼氏とはどんな『付き合い』してたの?」
「だから、大した付き合いじゃないです。私も栗山さんと大して変わりません。だから、一緒に力を合わせて
いけばいいじゃないですかって思うんです」
「でも、キスしたことはあるでしょ?」
「そのくらいはあります」
「うーん」
「それでも、駄目ですか?」
「うーん。そこまで言われたら俺ももっと正直に話すけど、っていうか、今美代ちゃんと話してることで充分、
他人には言えないようなこと、どんどん、どんどん、しゃべっちゃってるけど、俺には『彼女』ってことになると
自分なりの考え方があって、
「それを教えて下さい!」
「うん。俺は彼女は一生で一人でいいんだ。一生で一人の女の子とだけと付き合いたいんだ」
「それって、結婚するつもりがなければ、彼女を作らないってことですか?」
「そう。だから、今まで不器用だし恥ずかしがりやだってこともあったけど、そういう自分なりの考え方っていうか、
理想があったから、22年間彼女がいなかったのかもしれないし・・・
「ちょっと待って下さい。考えさせて下さい。一週間、考えさせて下さい」
「ちょっと待ってよ。そこまで、美代ちゃんに負担はかけられないよ。まぁ、気にしないで、別に無理しなくて
いいから」
「一週間、考えさせて下さい」
「だから、考えなくていいって」
「考えさせてもくれないんですかぁ? 栗山さん、せめて考えるだけでも考えさせてもらえませんか?」
「そんな無理しなくていいから」
「考えるのもいけないんですか?」
「うん。まぁ、童貞と処女っていうのは難しいんじゃないかなぁ?」
「私はそうは思わないですけど」
「うん。まぁ、この話しは、また今度ね」
「ちょっと待って下さいよう」
「うーん。でも、そろそろほんとに部室に行かないと、今度ちゃんと、この話しの続きするから、それに
よく考えてもみるから」
「なんて、てーよく相手にもしてもらえないって感じますけど」
「そんなことないよ、『秘密』ちゃんと守ってよ。それだけはほんとによろしく、美代ちゃんだけしか知らないんだから」
「はい。それは絶対に誰にも言いません」
「うん。じゃあ、また今度!」
「・・・はい」 |
|